創業直後にやるべき税務手続きチェックリスト


開業届を提出すれば、開業に伴う税務手続きはひとまず終わり、と思われがちですが、実はご自身の状況によって、追加で提出しておいた方がよい届出がいくつかあります。従業員を雇うのか、家族に給与を払うのか、源泉徴収の納付方法をどうするのか。当てはまる項目を見落としたまま事業を続けてしまうと、後から「出しておけば良かった」となる制度もあります。

この記事では、開業届・青色申告承認申請書という基本の2手続きに加えて、状況に応じて必要になる周辺の届出(該当する方のみ必要なものと、都道府県税事務所への届出のように原則ほぼ全員に関わるものがあります)を、提出期限が早いものから順に整理しました。

全員に関係する基本の2手続き

個人事業主として開業する際、ほぼすべての方に関係するのが「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)と「所得税の青色申告承認申請書」です。開業届は事業を開始した年分の確定申告期限までに、青色申告承認申請書は原則として開業日から2か月以内に、いずれも納税地を所轄する税務署へ提出します。この2つの書類の書き方・記入例については「個人事業主として開業する手順」で詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。この記事では、その先にある、状況に応じて必要になる周辺の届出を見ていきます。

税務署・都道府県税事務所への届出一覧

ご自身の状況に当てはまるものがないか、次の表で確認してみてください。提出期限が早いものから順に並べています。

手続き対象になる人提出期限提出先
給与支払事務所等の開設届出書従業員を雇う場合開設の事実があった日から1か月以内税務署
個人の事業の開始等の報告書個人で事業を開始した方(原則全員が対象)事業開始から1か月以内都道府県税事務所
青色事業専従者給与に関する届出手続生計を共にする家族に給与を支払う場合原則その年の3月15日まで(1月16日以後の開業等は2か月以内)税務署
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書源泉徴収した所得税の納付を年2回にまとめたい場合(従業員が常時10人未満)随時(提出翌々月納付分から適用)税務署

それぞれ、もう少し詳しく見ていきます。

従業員を雇う場合:給与支払事務所等の開設届出書

開業と同時に、あるいは事業を進める中で従業員を雇う場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出します。開設の事実があった日から1か月以内という期限が定められているため、雇用のタイミングが決まったら早めに準備しておくと安心です。

根拠条文|所得税法第230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)

要旨:給与を支払う事務所を新たに設けた場合、その事実があった日から1か月以内に届出書を税務署長に提出しなければならない、と定められています。

第二百三十条 国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

見落としやすいポイント:都道府県税事務所への届出

開業届や青色申告承認申請書は税務署(国税)への届出ですが、これとは別に、都道府県税事務所への届出も必要です。個人事業税(都道府県が課す税金)に関する「個人の事業の開始等の報告書」がこれにあたり、事業所在地が千葉県の場合は、事業を開始した日から1か月以内に、管轄の県税事務所へ提出します。税務署への届出だけで手続きが完結したと思い込んでしまうケースがあるため、あわせて確認しておきましょう。

お恥ずかしい話ですが、私自身、開業してからしばらく経つまでこの届出の存在を知りませんでした。職業的な知識としては知っていても、いざ自分自身の個人事業主としての手続きとなると、こうした見落としが起こり得るのだと実感した経験です。

お住まいの都道府県によって窓口の名称や提出方法が異なることがあるため、千葉県以外で開業される方は、お住まいの都道府県税事務所のホームページでご確認ください。

なお、この報告書を提出しなかった場合でも、罰則が科されるわけではありません。多くの場合、個人事業税は税務署へ提出した確定申告のデータをもとに都道府県が課税額を把握する運用になっており、報告書の提出の有無にかかわらず、課税対象であれば納税通知書が届きます。とはいえ、届出義務があること自体は変わりません。

家族に給与を払う場合:青色事業専従者給与に関する届出

生計を共にする配偶者や家族に事業を手伝ってもらい、給与を支払う予定がある場合は、「青色事業専従者給与に関する届出手続」を行うことで、その給与を必要経費に算入できるようになります。この制度は、青色申告の承認を受けていることが前提です。白色申告の場合は家族への給与をそのまま経費にすることはできませんが、配偶者なら86万円、それ以外の親族なら50万円を上限とする「事業専従者控除」という別の仕組みが用意されています。青色事業専従者給与の届出の提出期限は原則としてその年の3月15日までで、1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者ができた場合は、その日から2か月以内です。この届出をしないまま家族に給与を払っても、必要経費として認められない点に注意してください。

根拠条文|所得税法第57条第2項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)

要旨:青色事業専従者給与を必要経費に算入するには、原則その年3月15日まで(1月16日以後の開業等は2か月以内)に、専従者の氏名・職務内容・給与額等を記載した書類を税務署長に提出しなければならない、と定められています。

その年分以後の各年分の所得税につき前項の規定の適用を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同項の事業を開始した場合には、その事業を開始した日から二月以内)に、青色事業専従者の氏名、その職務の内容及び給与の金額並びにその給与の支給期その他財務省令で定める事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

源泉徴収の納付をまとめたい場合:源泉所得税の納期の特例

従業員に給与を支払う場合、原則として毎月、源泉徴収(=給与や報酬を支払う側が、あらかじめ所得税を天引きして国に納める仕組みのことです)した所得税を納付する必要があります。ただし、給与の支給人員が常時10人未満であれば、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、納付を年2回(7月・翌年1月)にまとめられます。この申請書には提出期限の定めがなく随時提出できますが、提出した月の翌々月に支払う給与等から適用が始まるため、すぐに効果が出るわけではない点に注意が必要です。他の届出と違って厳密な期限はないため、毎月の納付作業が負担になり始めたタイミングで申請すれば十分間に合います。

根拠条文|所得税法第216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)

要旨:常時10人未満の従業員等に給与を支払う事業者が税務署長の承認を受けた場合、源泉徴収した所得税の納付を年2回(7月10日・翌年1月20日)にまとめることができる、と定められています。

第二百十六条 居住者に対し国内において給与等又は退職手当等の支払をする者(源泉徴収を要しない者を除く。)は、当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、一月から六月まで及び七月から十二月までの各期間に当該事務所等において支払つた給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額を、一月から六月までの期間に係るものについては当該期間の属する年の七月十日までに、七月から十二月までの期間に係るものについては当該期間の属する年の翌年一月二十日までに国に納付することができる。

期限を過ぎてしまったらどうなるか

上記の届出は、期限を過ぎたからといって事業自体ができなくなるわけではありません。ただし、それぞれ期限を守れなかった場合の不利益があります。青色事業専従者給与に関する届出であれば、届出が間に合わなかった年は家族への給与を必要経費にできませんし、源泉所得税の納期の特例も、申請が遅れればその分だけ毎月納付の状態が続きます。「気づいたときにはもう遅かった」とならないよう、該当しそうな項目は、事業を始める前後のタイミングでまとめて確認しておくのがポイントです。

消費税関連の届出は別記事で解説しています

インボイス登録をはじめとする消費税関連の届出は、判断すべき論点が多いため、この記事では扱いません。インボイス登録をすべきかどうかで迷っている方は「インボイス登録すべきか?免税事業者のままでいるべきか?」をご参照ください。

まとめ

開業直後の税務手続きは、全員に関係する開業届・青色申告承認申請書と、該当する場合だけ必要になる周辺の届出に分けて考えると整理しやすくなります。基本の2手続きに続けて、該当する届出を提出期限が早いものから並べると、次のようになります。

  1. 開業届・青色申告承認申請書(全員対象、税務署)
  2. 給与支払事務所等の開設届出書(従業員を雇う場合、税務署)
  3. 個人の事業の開始等の報告書(全員対象、都道府県税事務所)
  4. 青色事業専従者給与に関する届出手続(家族に給与を払う場合、税務署)
  5. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(源泉税の納付をまとめたい場合、税務署。提出期限の定めなし)

ご自身の状況にどれが当てはまるか判断に迷う場合は、開業前後のタイミングで一度、税理士に相談しておくと安心です。開業1年目の経理の進め方については「個人事業主の創業1年目、経理は何から始めるべきか」もあわせてご参照ください。


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