簡易課税制度を選んでみたものの、思っていたより有利にならなかった、あるいは設備投資の予定ができて本則課税(原則課税)に戻したい、という場面が出てくることがあります。消費税の本則課税と簡易課税、その違いについてで計算方法の違いを確認した方に向けて、この記事では簡易課税をやめる(本則課税に戻す)ための手続きと、その際に注意すべき点を整理します。
簡易課税をやめるには「不適用届出書」の提出が必要
簡易課税を選ぶ際に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出したのと同じように、やめる際にも「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」(=簡易課税の適用をやめることを税務署に届け出るための書類です)という別の届出書を、納税地の所轄税務署に提出する必要があります。何もせずに放置していても自動的に本則課税へ戻るわけではなく、届出をしない限り簡易課税の適用が続く点が、まず押さえておきたいポイントです。
提出期限は「やめたい課税期間の初日の前日まで」
不適用届出書の提出期限は、簡易課税の適用をやめたい課税期間の初日の前日までです。個人事業主であれば課税期間は暦年(1月1日〜12月31日)が原則のため、来年から本則課税に切り替えたい場合は、今年の12月31日までに提出する必要があります。年末が近づいてから慌てて検討を始めると、提出期限に間に合わず、望まない年もさらに簡易課税が続いてしまうことになりかねません。設備投資や店舗の改装等、本則課税での還付を見込んだ計画がある場合は、実行する年の前年のうちに切り替えの判断を済ませておくと安心です。
「2年間は簡易課税をやめられない」というルール
事業を廃止した場合を除き、簡易課税の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、不適用届出書を提出することはできません。つまり、簡易課税を選んだ最初の年に「やっぱりやめたい」と思っても、少なくとも2年間は本則課税に戻れない仕組みになっています。この2年しばりは、簡易課税と本則課税を毎年のように行き来して、その年ごとに有利な方だけを選ぶ、という使い方を防ぐための制限です。
根拠条文|消費税法第37条第5項・第6項・第7項(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
要旨:簡易課税の適用をやめる、または事業を廃止するときは、その旨を記載した届出書(不適用届出書)を提出しなければならない(第5項)。ただし事業を廃止した場合を除き、適用開始から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、この不適用の届出をすることはできない(第6項)。また、不適用届出書の効力は提出した日の属する課税期間の末日の翌日から生じる(第7項)ため、やめたい課税期間から適用を切り替えるには、その前の課税期間の末日まで(=やめたい課税期間の初日の前日まで)に提出する必要がある。
第五項 第一項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき、又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
第六項 前項の場合において、第一項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない。
第七項 第五項の規定による届出書の提出があつたときは、その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日以後は、第一項の規定による届出は、その効力を失う。
事業を廃止する場合は2年しばりの対象外
上記の条文にあるとおり、事業を廃止する場合は2年間の継続要件そのものが適用されません。廃業する年に簡易課税を選んでいたとしても、その時点で不適用届出書(この場合は事業廃止の旨を記載したもの)を提出できます。もっとも、廃業のタイミングでは他にも提出すべき届出(廃業届等)があるため、消費税の届出だけを個別に検討するのではなく、廃業に伴う手続き全体を整理したうえで進めてください。
なぜ簡易課税をやめたくなるのか、よくある理由
簡易課税から本則課税への切り替えを検討する理由として、次のようなケースが挙げられます。
- 店舗の内装工事や機材購入等、まとまった設備投資を予定しており、本則課税であれば還付を受けられる見込みがある(簡易課税は売上高にみなし仕入率を掛けて控除額を計算する仕組みのため、控除額が売上にかかる消費税額を超えることはなく、還付は生じません。一方、本則課税は実際に支払った仕入・経費の消費税額を控除するため、その額が売上にかかる消費税額を上回れば還付を受けられます)
- 事業内容が変わり、実際の課税仕入(仕入や経費のうち消費税がかかるもの)の割合が、自分の事業区分のみなし仕入率より高くなってきた
- 基準期間(個人事業主は前々年)の課税売上高が5,000万円を超え、そもそも簡易課税の要件を満たさなくなった
最後の「課税売上高が5,000万円を超えた」ケースは少し扱いが異なります。この場合は不適用届出書を提出していなくても、要件を満たさなくなった課税期間からは自動的に本則課税での計算に切り替わります(簡易課税制度選択届出書そのものは効力を失うわけではなく、翌々年に売上高が5,000万円以下に戻れば再び簡易課税が適用される点には注意してください)。一方、設備投資や事業内容の変化を理由に、要件を満たしたまま自分の意思で本則課税に切り替えたい場合は、上記の不適用届出書の提出が必要です。課税売上高が基準を上下することで本則課税・簡易課税が入れ替わるパターンは、届出の要否や有効期間の考え方が絡んで複雑になりやすいため、該当しそうな方は別途顧問税理士にご確認ください。
再び簡易課税に戻りたくなった場合
本則課税に戻したあと、翌年以降にまた簡易課税を選び直すこと自体は可能です。その場合は、あらためて「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出します。高額特定資産の取得がなければ、本則課税で1年過ごした翌年からすぐに簡易課税へ戻ることも制度上は可能です。たとえば、その年だけ大きな設備投資があって本則課税での還付を受けたいが、通常の年は経理の事務負担が軽い簡易課税で運用したい、というように単発で本則課税に切り替える選び方もできます。ただし、設備投資等で高額な資産(高額特定資産)を取得した場合は、その取得があった課税期間を含め原則3年間は簡易課税を選択できない制限があるため、本則課税で還付を受けたあとすぐに簡易課税へ戻れるとは限りません。該当しそうな投資を予定している場合は、切り替えのタイミングも含めて事前に顧問税理士に相談しておくと安心です。
根拠条文|消費税法第37条第3項第3号(高額特定資産を取得した場合の簡易課税制度選択届出書の提出制限)
要旨:高額特定資産を取得した場合、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、簡易課税制度選択届出書を提出することができない。つまり、取得した課税期間を含め原則3年間は簡易課税を選択できないことになる。
第三項 第一項の規定の適用を受けようとする事業者は、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める期間は、同項の規定による届出書を提出することができない。ただし、当該事業者が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間から同項の規定の適用を受けようとする場合に当該届出書を提出するときは、この限りでない。
三 当該事業者が第十二条の四第一項に規定する場合に該当するとき(前二号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 高額特定資産(同項に規定する高額特定資産をいう。)に係る同項に規定する高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
まとめ
簡易課税をやめて本則課税に戻すには、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、やめたい課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。事業を廃止する場合を除き、適用開始から2年間は途中でやめられない点、また届出をしない限り自動的には本則課税へ戻らない点は、特に見落としやすいポイントです。設備投資等で本則課税への切り替えを検討している場合は、実行の前年のうちに判断し、期限に余裕を持って届出を済ませておくことをおすすめします。
