創業計画書の「売上予測」に根拠を持たせる書き方


創業計画書を書き進めて「事業の見通し」欄にたどり着いたとき、売上高の数字をどう決めればいいのか、手が止まっていませんか。創業計画書の全体像と各欄のポイントは創業計画書の書き方(融資を通すための視点)で整理しました。この記事では、そこで簡単に触れた「売上予測の根拠」に絞り、日本政策金融公庫(以下、公庫)が公開している資料と記入例をもとに、数字に根拠を持たせる書き方を掘り下げます。

「事業の見通し」欄が求めているのは、数字の「計算根拠」

公庫の創業計画書の様式では、右側の下のほうに「事業の見通し(月平均)」欄があります。ここでは「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2つの時点について、売上高・売上原価・人件費・家賃・支払利息・その他の経費と、そこから計算される利益を、1か月あたりの平均額で記入します。

この欄の右側には、様式そのものに「売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください。」という注記があります。つまり、売上高の欄に「月80万円」と書くだけでは足りず、その80万円がどういう計算で出てきたのかを、同じ欄の中で説明することが求められています。

ここでいう「根拠」とは、売上高をいくつかの要素に分解した計算式のことです。たとえば「客単価×1日の客数×営業日数」のように分解しておくと、読み手は単価が妥当か、客数が多すぎないか、営業日数は定休日と合っているか、と1つずつ確かめられます。私自身が公庫の面談を受けた経験でも、事業の収益見込みがどれだけ固いかは見られる視点の一つでした(審査全体の見られ方は創業融資の審査で見られるポイントで紹介しています)。

公庫が示している、業種別の4つの計算式

公庫の書式ダウンロードページには、創業計画書の記入例と並んで「【参考】売上高等の計算方法について」という資料が掲載されています。この資料では、業種の特徴に応じて、売上高の計算式が次の4つに整理されています。

業種の特徴計算式資料に挙がっている業種の例資料の計算例(1か月)
設備が直接売上に結びつき、設備1台あたりの生産能力がとらえやすい設備の生産能力×設備数部品製造業、印刷業、運送業など加工賃50円×1日500個×旋盤2台×25日=125万円
店舗での販売の割合が大きい販売業1㎡(または1坪)あたりの売上高×売場面積コンビニエンスストアなど1㎡あたり16万円×売場面積100㎡=1,600万円
飲食店・理容業・美容業などのサービス業客単価×設備単位数(席数)×回転数飲食店、理容業、美容業など客単価3,950円×椅子2台×4.5回転×25日=88万円
人の働きが売上に直結する業種従業者1人あたりの売上高×従業者数自動車販売業、化粧品販売業、ビル清掃業など1人あたり256万円×3人=768万円

表の「回転数」とは、1つの席や設備が1日のうちに何回お客さんに使われるかを表す数字です。1つの席に昼と夜1回ずつお客さんが座れば2回転、昼だけなら1回転と数えます。回転数は1日あたりの数字なので、月の売上にするには、表の計算例のように月の営業日数(例では25日)を掛けます。

同じ資料には、「業種の特性を考え、最も適した方法を選び、他の方法もあわせて検討してみましょう」「業界平均に地域事情などを考慮するなどして多角的に売上高を予測することが大切です」とも書かれています。1つの計算式で出した数字を、別の角度から出した数字と突き合わせてみる、という考え方です。たとえば席数×回転数で出した飲食店の売上を、1人で回せる客数の上限からも計算してみて、大きくずれていないかを確かめる、といった使い方ができます。

4つの型に当てはまらない場合

フリーランスのデザイナーやエンジニアのように、案件ごとに受注する仕事は、4つの型のどれにもぴったりとは当てはまりません。公庫のソフトウェア開発業の記入例では、売上高を「300万円/件×1件/月=300万円(受注契約書あり)」と書いています。考え方は同じで、「1件あたりの単価×月の件数」のように、自分の事業の売上がどういう単位で積み上がるのかを分解して書くと、根拠を示しやすくなります。

計算式に入れる数字は、どこから持ってくるか

計算式の形を整えても、中に入れる単価や客数が思いつきの数字では、根拠としての説得力は生まれません。公庫の業種別の記入例と参考資料を見ると、数字の出どころはおおむね次の4つに分けられます。

数字の出どころ記入例・参考資料での書き方準備しておくもの
勤務時の経験「原価率35%(勤務時の経験から)」「2回転⇒3回転(勤務時の経験から)」同業での勤務時の客単価・回転数・原価率(売上高に占める売上原価の割合)などの実績
契約・受注の見込み「300万円/件×1件/月=300万円(受注契約書あり)」受注契約書、発注の約束がわかる書面
業界の平均値参考資料の計算例で「1㎡当たりの売上高(月間)16万円(『小企業の経営指標』による業界平均から算出)」公庫の「小企業の経営指標調査」などの統計資料
地域の事情学習塾の記入例では「近隣に小学校7校、中学校5校、高校5校あり、英語塾のニーズが見込める地域」と、地域の需要を書いている商圏内の人口・学校・競合店などを自分で調べたメモ

業界の平均値について、公庫の参考資料では「1㎡当たりの売上高や従業者1人当たりの売上高などについては、『小企業の経営指標』(日本政策金融公庫総合研究所編)などで調べることができます」と案内されています。現在は公庫の小企業の経営指標調査のページで、業種別の調査結果がPDFで公開されています。どの指標が載っているかは業種や調査年度によって異なるため、自分の業種の調査結果を開いて確認してください。この調査は、決算データをもとに小企業の収益性などの指標を業種ごとに集計したもので、業種ごとに隔年で実施されています。

4つの出どころのうち、公庫の業種別記入例9つのすべてに出てくるのが「〜の経験から」という書き方です。同じ業種で働いていた方は、当時の客単価や1日の客数、原価率を思い出して書き出しておくと、そのまま根拠として使えます。異業種から参入する場合は、業界の平均値と地域の事情を組み合わせて、数字を補強していくことになります。審査では、これまでの経歴と、これから始める事業との親和性(これまでの経験が新しい事業に生きるかどうか)も見られます。勤務時の経験から単価や客数を示せることは、売上の根拠になるだけでなく、経歴と事業がつながっていることを数字で示すことにもなります。

すでに受注が決まっている案件がある場合は、受注契約書そのものが売上を裏づける根拠資料になるため、公庫から面談時の提出資料として指定されることがあります。私自身も公庫の面談で、すでに締結していた契約について契約書の提示を求められました。契約が決まっている案件があれば、計算式に「(受注契約書あり)」と書き添えたうえで、契約書を手元に用意しておくと安心です。

記入例に見る、根拠の書き方

公庫が公開している業種別の記入例から、売上高の根拠の書き方を2つ紹介します。どちらも、売上をいくつかの要素に分解し、要素ごとに数字を示しています。

美容業の記入例(創業当初)

売上の区分計算式月の売上
施術(カット・カラー・パーマ等)6,000円(平均単価)×3台×2回転×26日93万円
ヘアケア商品販売―2万円

「客単価×設備単位数×回転数」の型に、月の営業日数(26日)を掛けています。施術の売上と商品販売の売上を分けて書いている点も参考になります。売上の種類が複数ある場合は、種類ごとに計算して足し合わせると、どの売上がどれだけの割合を占めるのかが読み手に伝わります。

学習塾の記入例(創業当初)

売上の区分計算式月の売上
英語(小5〜小6)2,000円/コマ×4コマ×7人×2学年分11万円
英語(中1〜中3)2,500円/コマ×4コマ×7人×3学年分21万円
英語(高1〜高3)3,000円/コマ×4コマ×7人×3学年分25万円
英会話・幼児教室月謝制12,000円×10人12万円

こちらは、学年ごとに単価が違うことを反映して、区分ごとに計算しています。「1コマいくら×何コマ×何人」と分解されているため、1コマあたりの単価が妥当か、各学年7人という生徒数が集められそうか、を読み手が1つずつ確認できます。

「創業当初」と「1年後」は分けて、伸びにも理由を添える

事業の見通し欄は「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2列に分かれていて、後者には「( 年 月頃)」と、軌道に乗る時期を書く欄もあります。開業してすぐに最大の売上が立つ前提ではなく、立ち上がりの時期と、軌道に乗った後の時期を分けて考えることが前提になっている様式です。

公庫の記入例では、1年後の売上高について「創業当初の1.3倍(勤務時の経験から)」「2回転⇒3回転(勤務時の経験から)」のように、どの程度伸びるのか、その見込みの理由は何かを短く書き添えています。1年後の数字も、創業当初と同じく根拠を示す対象です。伸び率だけを書いて理由を添えないと、その伸びが単なる希望なのか、経験に基づく見込みなのかを読み手が判断できません。

売上の根拠は、他の欄の数字とつながっているか

売上高の計算式に使った数字は、創業計画書の他の欄とも連動しています。売上の欄だけを見て整えても、他の欄と食い違っていると、計画書全体の信頼性が下がってしまいます。

  • 席数・台数と設備資金:計算式で「椅子3台」としたなら、「必要な資金と調達方法」欄の設備資金や見積書も3台分になっているか
  • 営業日数と定休日:居酒屋の記入例では「日曜定休」と書いたうえで、昼の営業を月26日で計算しています。定休日の設定と月の営業日数が合っているか
  • 売上原価:公庫の参考資料では、売上原価(=小売業やサービス業では売上に対応する商品などの仕入れ、製造業では材料費や外注費など、製品の製造に直接かかった費用のことです)は一般的に「売上高×原価率」で求めるとされています。原価率も、業界の平均値に自分の販売戦略を加味して決め、根拠を書きます
  • 人件費と客数:その客数を1人でさばけるのか、スタッフが必要なら人件費の欄に反映されているか。なお、個人事業主の場合、人件費には事業主本人の分は含めず、家族など事業主以外の分を含めます
  • 支払利息:公庫の参考資料では、1か月の支払利息を「借入金残高×金利(年利)÷12か月」で計算するとされています。「必要な資金と調達方法」欄の借入額と合っているか

また、事業の見通し欄で計算される「利益」は、個人事業主にとっては生活費の出どころでもあります。公庫の記入例には、所得税などの税金や借入金の返済元金はこの利益から支払われる旨の注記があります。売上高を積み上げて出てきた利益で、生活費と借入の返済をまかなえるかどうかも、あわせて確認しておく必要があります。

提出前のセルフチェック

最後に、売上予測の根拠について、提出前に確認しておきたい点をまとめます。

  1. 売上高の横に、単価×数量のような計算式が書いてあるか
  2. 計算式の中の単価・客数・回転数などについて、それぞれの出どころ(勤務時の経験、契約、業界の平均値、地域の事情)を説明できるか
  3. 売上の種類が複数ある場合、種類ごとに分けて計算しているか
  4. 1年後(または軌道に乗った後)の売上について、伸びる理由が添えてあるか
  5. 席数・台数・営業日数・人数が、設備資金や人件費など他の欄の数字と食い違っていないか
  6. 計算された利益で、生活費と借入の返済をまかなえるか

まとめ

創業計画書の「事業の見通し」欄では、売上高の数字だけでなく、その計算根拠を書くことが様式上求められています。公庫の参考資料は、業種に応じて「設備の生産能力×設備数」「1㎡あたりの売上高×売場面積」「客単価×席数×回転数」「従業者1人あたりの売上高×従業者数」の4つの計算式を示しており、案件ごとに受注する仕事でも「単価×件数」と分解すれば同じ考え方で書けます。計算式に入れる数字は、勤務時の経験・契約・業界の平均値・地域の事情のどこから持ってきたのかを添え、1年後の伸びにも理由を示したうえで、設備資金や人件費など他の欄と食い違いがないかまで見直しておくと、読み手が検証しやすい計画書になります。


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