開業日はいつにするのが正解か?決め方のコツ


開業届や青色申告承認申請書の書き方を調べているうちに、意外と後回しにしてしまいがちなのが「開業日をいつにするか」という決めごとです。特に難しい話ではなさそうに見えて、いざ書類の該当欄を前にすると、何を基準に決めればいいのかわからず手が止まってしまう方は多いのではありませんか。この記事では、開業日を決めるうえでのルールと、実務的に押さえておきたいポイントを整理します。

開業日を決める法律上の厳格なルールはない

まず前提として、個人事業主の「開業日」について、法律で厳密に定義されたルールはありません。法人の設立日が登記をした日という明確な基準で決まるのとは異なり、個人事業の開業日は、事業の実態に合わせてご自身で判断して構わないとされています。

根拠条文|会社法第49条(株式会社の成立)

要旨:株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立すると定められています(合同会社等の持分会社についても、会社法第579条で同様に設立の登記により成立する旨が定められています)。

第四十九条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。

具体的には、次のような日を基準にする考え方があります。

  • 最初の売上が発生した日
  • 事業のための最初の契約を結んだ日
  • 事務所やお店として使う物件を借りた日
  • 屋号を決めて名刺やウェブサイトの準備を始めた日

どれか一つが「正解」というわけではなく、ご自身の事業の実態に最も近いと感じる日を選べば問題ありません。会社員を続けながら副業として始める場合も同様に、実際に事業活動を始めたと言える日を基準にします。

開業日そのものより、開業日を起点に決まる「提出期限」に注意が必要

開業日の決め方に厳密なルールがない一方で、開業日を基準に提出期限が決まる書類があります。代表的なものが、税務署に提出する開業届と、所得税の青色申告承認申請書(青色申告という税務上の優遇が受けられる申告方法を選ぶための届出)です。この2つの期限の仕組みを理解しておくことが、開業日を考えるうえで実務的に一番重要なポイントになります。

根拠条文|所得税法第229条(開業等の届出)

要旨:事業を開始した場合、その事実があった年分の所得税の確定申告期限までに、開業届を税務署長へ提出しなければならないと定められています。

第二百二十九条 居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し、若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。

開業届はいわば「事業を始めました」という事実の届出であるのに対し、次の青色申告承認申請書は「青色申告を選びたい」という意思表示の届出であり、期限の考え方も別になります。

根拠条文|所得税法第144条(青色申告の承認の申請)

要旨:青色申告の承認を受けるための申請書は、原則としてその年の3月15日まで、その年の1月16日以後に事業を開始した場合は開業日から2か月以内に提出しなければならないと定められています。

その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

開業届の提出期限は、開業日にかかわらず、その年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までとされているため、開業日をいつにしても大きな差は生まれません。一方、青色申告承認申請書は、開業日が1月15日以前か1月16日以後かによって、期限の計算方法自体が変わります。

個人事業税に関する届出も忘れずに

これらは所得税(国税)に関する届出ですが、このほかに個人事業税(地方税)に関する届出として、事業所を管轄する都道府県税事務所へ「事業開始等の報告書」を提出する必要もあります。千葉県の場合は「個人の事業の開始等の報告書」という名称で、事業を開始した日から1か月以内に県税事務所へ提出することとされています(提出期限・名称は都道府県により異なります)。こちらは開業日にかかわらず「開始日から1か月」で一律に計算されるため、次に説明する1月開業時の期限計算の注意点は、所得税の青色申告承認申請書に固有の論点です。

特に1月に開業する場合は、期限の計算方法に注意する

青色申告承認申請書の提出期限は、原則として、青色申告の適用を受けたい年の3月15日です。これは、既に事業を行っている方が翌年分から新たに青色申告に切り替えたい場合も同じ考え方です。ただし、その年の1月16日以後に新しく事業を始めた方だけは例外で、開業日から2か月以内であれば、3月15日を過ぎていても間に合います。開業日によってどう変わるか、表で整理します。

開業日青色申告承認申請書の提出期限
1月1日〜1月15日その年の3月15日まで
1月16日以降(何月でも)開業日から2か月以内

この仕組みでとりわけ誤解されやすいのが、1月16日以降に開業した場合は、原則の3月15日ではなく、開業日を起点に2か月後まで期限が延びるという点です。例えば2月1日に開業したのであれば、期限は4月1日までとなり、原則の3月15日よりも、むしろ余裕が生まれることになります。「1月中に開業しないと青色申告に間に合わない」と思い込んで急いで書類を揃える必要はありません。実質的な事業の開始日を優先して決めていただいて構いません。

逆に、1月1日〜1月15日の間に開業する場合は、上記の例外の対象外となり、原則どおり3月15日が期限となるため、開業準備と並行して青色申告承認申請書の準備を進める必要がある点は覚えておくと安心です。

補足として、青色申告の承認申請がこのように「事前届出制」になっているのは、その年の所得の見通しが立ってから有利な申告方法を選べてしまうことを防ぐ趣旨によるものだと一般に説明されています。

開業費の計上には、開業日をそこまで気にしなくてよい

「開業日を早めに設定しないと、それより前に使った準備費用が経費にできなくなるのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、その心配は不要です。事業を始めるにあたって開業日より前に支出した準備費用は、「開業費」という科目で経費として計上できます。名刺の作成費用、打ち合わせの交通費、事業用に購入した備品代など、開業前の支出であっても、事業のために使ったものであれば開業費として扱えます。開業費の詳しい計上方法は別の記事で改めて取り上げますが、開業日をどこに設定しても、それより前の準備費用が経費にできなくなるわけではないという点は、開業日を決める際の安心材料にしていただければと思います。

決め方の具体的な視点

以上を踏まえたうえで、実際に開業日を決める際の視点をまとめます。

  1. まずは実質的に事業を始めたと言える日(最初の受注、契約、事務所の契約開始など)を基準に考える
  2. 候補になる日が複数ある場合は、月初など管理しやすい日を選ぶという考え方もある
  3. 青色申告を利用したい場合、1月1日〜1月15日の開業だと期限が3月15日で固定される点を踏まえておく
  4. 屋号付き口座の開設や各種契約の名義変更など、開業届の提出後に進める手続きがある場合は、開業日を決めたら早めに開業届を提出する
  5. 会社員を辞めて独立する場合、退職日と開業日を無理に一致させる必要はなく、実際に事業を始めた実態に合わせて開業日を決めて構わない

迷ったときに絶対的な正解があるわけではないため、事業の実態に近い日を選び、決めたら早めに書類を提出するという進め方で十分です。

まとめ

開業日そのものに厳密な決まりはありませんが、開業日を起点に計算される青色申告承認申請書の提出期限には注意が必要です。特に1月に開業を予定している方は、1月15日を境に期限の計算方法が変わる点を押さえたうえで、事業の実態に合った開業日を選んでいただければと思います。開業届と青色申告承認申請書の具体的な書き方は、個人事業主として開業する手順で解説しています。


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