スパチャは総額と手取りで税金が変わる?差が出るのは「収入金額」で決まる基準


配信中に「¥1,000」のスパチャが飛んできたのに、後で振り込まれた金額を見るとだいぶ少ない。確定申告の時期になって、「売上として書くのは視聴者が送ってくれた総額なのか、実際に入ってきた手取りなのか」で手が止まった経験はありませんか。総額で書けば税金を払いすぎそうですし、手取りで書けば申告漏れを疑われそうで、どちらにも不安が残ります。

この記事では、YouTubeのSuper Chat(スパチャ)を例に、総額と手取りのそれぞれの考え方と、どちらで書いても税金が変わらないのか、変わるとしたらどこなのかを整理します。

先に押さえたいこと:税金の元になる「所得」はどちらでも同じ

確定申告では、まず「収入金額」(=その年に得た売上のこと)を書き、そこから機材費などの必要経費(=活動のためにかかった費用)を差し引いて「所得」を出します。所得税は、この所得をもとに計算されます。

スパチャの場合、総額を収入金額に書くなら、YouTubeが差し引いた金額(消費税分とYouTubeの取り分。以下「差し引かれた金額」)を必要経費に書きます。手取りを収入金額に書くなら、差し引かれた金額は最初から収入に入っていないので、経費にも書きません。どちらの書き方でも、差し引きの所得は同じ金額になります。

総額で書く場合手取りで書く場合
収入金額視聴者が送った総額(消費税込み)YouTubeから支払われる金額
差し引かれた金額手数料として必要経費に書く収入に入っていないので書かない
所得同じ金額同じ金額

気をつけたいのは、総額を収入に書いたのに差し引かれた金額を経費に書き忘れるケースです。この場合は所得を多く申告することになり、そのぶん税金を多く払うことになります。総額で書くなら、差し引かれた金額の経費計上はセットで行ってください。

スパチャのお金はどう流れているか

総額と手取りの2つの考え方が出てくるのは、スパチャのお金の流れをどう見るかが分かれるためです。YouTubeのヘルプページでは、仕組みが次のように説明されています。

  1. 視聴者は、コメントを目立つ色で表示してもらうためにお金を払う
  2. YouTubeは、その総額から消費税やApp Storeの手数料(iOSアプリから送られた場合)を差し引く
  3. YouTubeは、その残りの70%を配信者に支払う

ヘルプページの原文は「Google によって確認された Super Chat と Super Stickers の収益の 70% がクリエイターに支払われます。70% は、収益の総額から地方消費税や App Store の手数料(iOS の場合)を差し引いた額から計算されます」です。メンバーシップやSuper Thanksも、同じく差し引き後の金額(ヘルプでは「純収益」)の70%がYouTubeから支払われる仕組みです。

ここで押さえておきたいのは、70%がかかるのは「届いたスパチャの総額」ではなく、「総額から消費税などを差し引いた残り」だという点です。配信中に届いたスパチャの額と比べるとかなり目減りしているので、計算が間違っているのでは、と思った方もいるかもしれませんが、こういう仕組みで計算されているためです。なお、ヘルプの「地方消費税」は英語版では「local sales tax」(視聴者の国の売上税)で、日本の視聴者の場合は消費税(10%)にあたります。例えば、配信中に日本国内の視聴者から届いたスパチャが、税込みで55,000円(Androidアプリやパソコンから送られたもの)だったとしましょう。計算は次のようになります。

計算の段階金額
配信中に届いたスパチャの合計(税込み)55,000円
消費税(10%)分を差し引く(55,000円×10/110)−5,000円
70%を計算するもとになる金額50,000円
配信者に支払われる金額(上の70%)35,000円

届いた55,000円に対して、配信者に支払われるのは35,000円、6割強です。iOSアプリから送られた分は、消費税に加えてApp Storeの手数料も差し引いてから70%を計算するため、もう少し少なくなります。

この例を申告に当てはめると、総額で書く場合は収入金額が55,000円、差し引かれた20,000円(消費税分5,000円+YouTubeの取り分15,000円)が必要経費です。手取りで書く場合は収入金額が35,000円で、経費はありません。どちらでも所得は35,000円で同じになります。

手取りで考える見方

1つ目は、視聴者のお金を受け取っているのはYouTubeで、配信者はYouTubeから分配を受けているとみる考え方です。この見方では、配信者の収入はYouTubeから支払われる金額で、YouTubeが差し引いた分は最初から配信者のお金になっていない、と整理します。

この見方の手がかりになるのが、YouTubeのヘルプが「70%がクリエイターに支払われます」と、YouTubeが配信者に支払う形で説明している点です。また、国税庁が公表している質疑応答事例にも、ほぼ同じ取引の形が出てきます。動画配信サービスのプラットフォーマー(=YouTubeのように、配信の場を提供している事業者のことです)が視聴者からコメント表示やスタンプ送信の対価を受け取り、その一定割合を動画の作成者に支払う、という整理です。ただし、この事例は宗教法人の法人税を扱ったもので、個人の所得税でどちらの金額を収入にするかを示したものではありません。

根拠条文|所得税法第36条第1項(収入金額)

要旨:所得の計算で収入として扱う金額は、特別な定めがある場合を除き、その年に「収入すべき金額」、つまり自分が受け取る権利のある金額です。

※以下は条文の原文です。読みづらければ読み飛ばして、上の要旨だけ読んで先へ進んで大丈夫です。

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

収入金額は「受け取る権利のある金額」なので、配信者が受け取る権利を持っているのはYouTubeからの支払額だ、と考えるのがこの見方です。

総額で考える見方

2つ目は、視聴者は配信者を応援するためにお金を払っていて、YouTubeはその代金を代わりに受け取り、手数料を差し引いて配信者に渡しているとみる考え方です。この見方では、視聴者が送った総額(消費税込み)が配信者の収入で、差し引かれた金額は配信者が支払った手数料として必要経費に書きます。視聴者の側から見たお金の向きに沿った整理です。

グッズや有料コンテンツの販売サイトのように、自分が売り手としてファンに商品を売り、サイト側は手数料を差し引いて代金を渡すだけという形の取引があります。こうした委託販売について、国税庁の消費税の通達(消費税法基本通達10-1-12)は、販売を代わりに行った側が受け取った総額を売り手の売上とし、手数料を差し引いた残りで処理することは例外として認める、という整理をしています。所得税で同じことを明示した通達は見当たりませんでしたが、総額で考える見方はこの整理に沿ったものです。スパチャをこれと同じ形とみるかどうかが、2つの見方の分かれ目です。

この記事の執筆時点で確認できた範囲では、国税庁がスパチャを名指しして、個人の所得税でどちらの金額を収入にするかを示した資料は見当たりませんでした。そのため、どちらか一方だけが正しいと言い切ることは、この記事では控えます。

違いが出るのは「収入金額」で判定される基準

所得が同じなら、どちらでもよいのではと思うかもしれません。ところが、所得税には所得ではなく「収入金額」の大きさで判定される基準がいくつかあります。総額で書けば収入金額は大きくなり、手取りで書けば小さくなるため、基準の近くにいる人は、どちらで書くかによって当てはまるかどうかが変わることがあります。配信者に関係しそうなものは次のとおりです。

収入金額で判定されるもの内容
事業所得か雑所得かの判断(所得税基本通達35-2)帳簿の保存がない場合、収入金額が300万円以下なら原則として雑所得(=事業と呼べるほどの規模・継続性がない活動から生じる所得)として扱われる
雑所得の書類保存(所得税法第232条第2項)雑所得として申告している人で、前々年の収入金額が300万円を超える場合は、その年の取引の書類を保存しなければならない
雑所得の収支内訳の添付(所得税法第120条第6項)雑所得として申告している人で、前々年の収入金額が1,000万円を超える場合は、総収入金額と必要経費の内容を記載した書類を確定申告書に添付しなければならない

事業所得か雑所得かの考え方そのものは、個人勢配信者、いつ開業届を出すべきかで詳しく整理しています。収入金額がこうした基準から十分に離れているなら、どちらの書き方を選んでも結果は変わりません。総額と手取りで基準をまたいでしまう場合は、自己判断で有利なほうを選ばず、税務署や税理士に、YouTubeの収益の仕組みを示しながら確認してください。

なお、消費税の納税義務があるかどうかの判定にも売上の金額が使われます。ただ、配信収入の消費税の扱いは、支払元が国内の会社か国外の会社かといった点でも変わるため、この記事では扱いません。

記録をつけるときのポイント

どちらの見方をとる場合でも、次の点を押さえておくと、申告の時期に慌てずに済みます。

  1. 総額で書くか手取りで書くかを決め、その方針をメモに残して毎年同じ書き方を続ける
  2. 総額で書く場合は、差し引かれた金額(消費税分とYouTubeの取り分)を手数料として経費に計上する。総額は、YouTube Studioの「収益化」→「Supers」タブにある購入履歴で確認する。履歴を見られるのは過去30日分なので、月ごとに記録を残す
  3. 手取りで書く場合は、YouTubeの支払明細に出てくる「自分に支払われる金額」を収入として記帳する
  4. 収益レポートや支払明細は、月ごとにダウンロードして保存しておく

総額で書く場合は、総額をどの数字で把握したかも後から示せるようにしておきます。配信中の記憶や配信画面を見ながら足し上げた数字ではなく、YouTube Studioの購入履歴のように、プラットフォームが出している記録の数字を使い、その記録も保存しておいてください。

もう一つ気をつけたいのが、収入をどの年に入れるかです。所得税は、お金が口座に入った日ではなく、受け取る権利が確定した時点で収入に入れるのが原則です。所得税の通達は、収入の種類ごとに収入に入れる日を定めています(所得税基本通達36-8。雑所得は36-14で、これに準じて判定します)。ただ、スパチャのような収入をどれにあてはめるかを直接示したものはなく、年末に発生した収益が年明けに振り込まれる場合にどちらの年の収入にするかは、判断が分かれることがあります。これも毎年同じ考え方で処理し、その考え方をメモに残しておいてください。

よくある疑問

Q. iOSアプリ(iPhoneなど)から送られたスパチャは、受け取りが少ないのはなぜ?
A. YouTubeの説明では、iOSアプリから購入された場合、App Storeの手数料を差し引いた額をもとに70%が計算されます。手取りで書く場合は、YouTubeから支払われた金額をそのまま収入にすれば足ります。総額で書く場合は、App Storeの手数料分も含めて、差し引かれた金額を経費に計上することになります。

Q. 去年の申告で、総額を収入に書いたのに、差し引かれた金額を経費に入れていなかった。
A. この場合は所得を多く申告していることになります。税額を正しい金額に直してもらう「更正の請求」という手続きがあり、原則として申告期限から5年以内であれば請求できます(国税通則法第23条第1項)。

まとめ

スパチャを総額で書くか手取りで書くかには、YouTubeから分配を受けているとみて手取りを収入にする見方と、視聴者から受け取った代金から手数料を払っているとみて総額を収入にする見方があります。どちらで書いても、差し引かれた金額をきちんと経費に入れていれば、税金の元になる所得は同じです。

違いが出るのは、事業所得か雑所得かの判断や書類保存の義務のように、収入金額で判定される基準です。書き方を一つに決めて毎年続けること、総額で書くなら差し引かれた金額の経費計上を忘れないこと、そして収入金額が基準の近くにあるときは書き方によって結論が変わりうると知っておくこと。この3点を押さえておけば、確定申告の時期に「どの数字を書けばいいのか」で手が止まることは少なくなります。


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