副業の収入が少しずつ増えてきて、「このまま副業として申告を続けるのか、開業届を出して個人事業主になるのか」で迷っていませんか。調べ始めると「20万円を超えたら」「300万円が目安」といった数字がいくつも目に入り、どれを基準にすればいいのか分かりにくいテーマです。
先に結論を書くと、「この金額を超えたら個人事業主に切り替える」という線引きは、所得税の法令や国税庁の案内の中には見当たりません。見極めの軸になるのは、その副業が税金の上で「事業」として扱われる状態になっているかと、青色申告をどの年から使いたいかの2つです。この記事では、よく目にする数字がそれぞれ何の基準なのかを整理したうえで、この2つの軸での判断の仕方を説明します。
「個人事業主に切り替える」とは、何をすることか
手続きの面でいえば、個人事業主になるとは、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる開業届)を提出することです。国税庁の案内で対象とされているのは「新たに事業を開始した方」で、勤め先を辞めていることは要件として挙がっていません。会社員を続けながら開業届を出すこともできます。実際には、開業届を出して個人事業主になっても、会社員として働きながら副業をするという形は届出の前と変わらない、という人もいます。ただし、勤め先の就業規則で副業がどう扱われているかは、税金の話とは別に確認しておいてください。
開業届の提出期限は、国税庁の案内では「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」とされています。開業届の書き方や一緒に出す書類は個人事業主として開業する手順で、開業日をいつにするかは開業日はいつにするのが正解か?決め方のコツで詳しく扱っています。
一方で、税金の計算の上で大きく変わるのは「所得の区分」です。所得税では、収入をその性質ごとに給与所得・事業所得・雑所得などに分けて計算します。副業の所得は、事業所得になる場合と、雑所得(=ほかのどの区分にも当たらない所得のことです)になる場合があり、どちらになるかは開業届を出したかどうかではなく、活動の実態で判定されます。
事業所得と雑所得で、何が変わるのか
副業の報酬などの雑所得は、国税庁の資料では「業務に係る雑所得」と呼ばれています。事業所得になるか業務に係る雑所得になるかで、扱いには次のような違いがあります。
| 項目 | 事業所得 | 業務に係る雑所得 |
|---|---|---|
| 青色申告 | できる(承認申請が必要) | できない |
| 青色申告特別控除 | 要件に応じて最高65万円・55万円・10万円 | なし |
| 赤字が出た年 | 給与所得など、ほかの所得と差し引きできる(損益通算) | ほかの所得と差し引きできない |
| 差し引ききれない赤字 | 青色申告なら翌年以後3年間繰り越せる | 繰り越せない |
損益通算とは、ある所得で出た赤字を、ほかの所得の黒字から差し引いて計算することです。国税庁の案内(タックスアンサーNo.2250)では、損益通算の対象になるのは不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の赤字で、雑所得の赤字はほかの所得から差し引けないとされています。会社員の副業でいえば、開業準備で経費が先にかさんだ年に赤字になった場合、事業所得なら給与所得と差し引きできますが、雑所得ならその赤字は計算に反映されません。青色申告の特典の全体像は青色申告とは何か、白色申告との違いにまとめています。
どちらに当たるかの判定の仕方は、このあと「判断の軸1」で説明します。
よく目にする「20万円」「300万円」は何の基準か
副業と個人事業主の話でよく出てくる数字を、何の基準なのかとあわせて並べると次のとおりです。
| 数字 | 何の基準か | 出典 |
|---|---|---|
| 20万円 | 給与を1か所から受けている会社員が、副業などの所得について所得税の確定申告をしなければならないかどうか(給与所得・退職所得以外の所得金額の合計で判定) | 国税庁タックスアンサーNo.1900 |
| 20万円以下でも | 所得税の確定申告が不要な場合でも、市民税・県民税(住民税)の申告は必要 | 八千代市「市民税・県民税の申告」 |
| 300万円 | 帳簿書類を保存していない場合、収入金額が300万円以下なら雑所得になり、300万円を超えれば事業所得と認められる余地が残る、という境目 | 所得税基本通達35-2 |
このうち「20万円」は、確定申告が必要かどうかの基準です。ここでいう所得金額とは、収入から経費を差し引いた後の金額を指します。副業の所得が20万円を超えれば、個人事業主になっているかどうかにかかわらず、所得税の確定申告が必要です。逆に20万円以下でも、住民税の申告は別に必要とされています(八千代市の案内による。お住まいの市区町村の案内もあわせて確認してください)。
つまり、表のどの数字も「開業届を出すべき金額」を定めたものではありません。切り替えを考えるときは、次の2つの軸で見ていきます。
判断の軸1:「事業」として扱われる状態になっているか
事業所得と雑所得の分かれ目について、国税庁は所得税基本通達35-2(=法令の解釈について国税庁が示している取扱いのことです)で考え方を示しています。この通達では、原稿・さし絵・デザインの報酬や講演料などに係る所得は、事業所得と認められるものを除いて「業務に係る雑所得」に当たるとされています。副業として受けることの多い仕事が、まず雑所得の側に挙がっている点に注意が必要です。動画やライブの配信で収入を得ている場合の考え方は、個人勢配信者、いつ開業届を出すべきかで配信活動に絞って扱っています。
そのうえで、通達の注書きは判定の基準を次のように示しています。
- 事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が「社会通念上事業と称するに至る程度」で行われているかどうかで判定します。
- 取引を記録した帳簿書類の保存がない場合は、業務に係る雑所得に当たります。例外は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合だけです。
1つめの「社会通念上事業と称するに至る程度」が具体的にどの程度なのかは、通達そのものには書かれていません。国税庁がこの通達を改正した際に公表した解説(「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」、令和4年10月)では、過去の裁判例を引いたうえで、次のような点を総合的に見て判定するとしています。
- 利益を得る目的で、対価を受け取って行っているか
- 一度きりではなく、繰り返し続けて行っているか
- 自分の判断と責任で、仕事を企画して進めているか
- どれだけの時間や労力をかけているか、そのための人や設備をそろえているか
- その取引の目的や、その人の職歴・社会的な立場・生活の状況
2つめの基準からいえるのは、帳簿をつけて書類を保存していることが、事業所得として扱われるための前提になるということです。収入金額が300万円以下で帳簿を保存していなければ、原則として雑所得になります。日々の記録をどう始めるかは個人事業主の創業1年目、経理は何から始めるべきかで紹介しています。
逆に、帳簿をつけて保存していれば、一般的に利益を得る目的・継続性・自分で企画して進めていることがあるとみられ、事業所得に区分される場合が多い、というのが先ほどの解説の考え方です。ただし、帳簿を保存していても、次のような場合は事業と認められるかどうかを個別に判断するとされています。
- 収入金額がわずかな場合:例えば、その収入金額が例年(おおむね3年程度)300万円以下で、主たる収入(会社員なら本業の給与など)に対する割合が10%未満の場合
- 利益を得る目的が認められない場合:例えば、例年赤字で、収入を増やす・黒字にするための営業活動などの取り組みをしていない場合
会社員の副業は、1つめの「収入金額がわずかな場合」に当てはまりやすいといえます。仮に主たる収入を給与収入500万円とすると、副業の収入金額が例年50万円未満なら、割合は10%未満になります。ただし、この10%はあくまで解説で「例えば」として示された目安で、下回ったら雑所得になると決まる線ではありません。帳簿をつけていることだけで事業所得になるとは限らず、活動の中身を見て個別に判断される、という意味です。
判断の軸2:青色申告を始めたい年に間に合うか
もう1つの軸は、青色申告をどの年から使いたいかです。青色申告で申告するには、事前に税務署へ「青色申告承認申請書」を出して承認を受ける必要があり、その提出期限は所得税法で決まっています。
根拠条文|所得税法第144条(青色申告の承認の申請)
要旨:青色申告をしたい年の3月15日までに申請書を出すのが原則。その年の1月16日以後に新しく事業を始めた場合は、始めた日から2か月以内に出せばよい。
※以下は条文の原文です。読みづらければ読み飛ばして、上の要旨だけ読んで先へ進んで大丈夫です。
その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
この期限から逆算すると、考え方は次のようになります。
- 今年の途中で切り替えて、今年の分から青色申告にしたい場合:開業日から2か月以内に承認申請書を出します(1月1日〜15日に開業した場合は、その年の3月15日までです)。
- 来年の分から青色申告にしたい場合:来年の3月15日までに承認申請書を出します。
期限を過ぎると、その年の分は青色申告ができず、最高65万円の青色申告特別控除も受けられません。副業を前から続けていて、自分の場合にどちらの期限が当てはまるのか判断しにくいときは、承認申請書を出す前に税務署へ確認しておくと確実です。また、最高65万円の控除を受けるには、正規の簿記(一般的には複式簿記)で記帳し、それに基づく貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告することに加えて、e-Taxによる申告または電子帳簿保存の要件を満たすことが必要です(国税庁タックスアンサーNo.2070)。
切り替えを見極めるためのチェックリスト
ここまでの内容を、自分の状況に当てはめて確認できる形にまとめます。
- 副業の所得(収入から経費を引いた金額)は、年20万円を超えそうですか。超えるなら、切り替えるかどうかにかかわらず確定申告が必要です。
- 取引を帳簿に記録し、請求書や領収書などの書類を保存していますか(これから保存していけますか)。保存がなければ、収入金額300万円以下では原則として雑所得として扱われます。
- その活動は、利益を得る目的で繰り返し続けているなど、「社会通念上事業と称するに至る程度」と言える状態ですか。副業の収入が主たる収入に比べてわずかな場合は、帳簿をつけていても個別に判断される点もあわせて確認してください。
- 青色申告を使いたいですか。使いたいなら、どの年の分からですか。
- 勤め先の就業規則で、副業や個人での事業がどう扱われているか確認しましたか。
2と3がそろい、4で青色申告を始めたい年が決まった時点が、切り替えを具体的に考えるタイミングです。そこから青色申告承認申請書の期限を逆算して、開業日と提出日を決めていくと、手続きの順番で迷いにくくなります。
まとめ
副業から個人事業主に切り替える金額の線は、法令や国税庁の案内では決められていません。よく目にする「20万円」は確定申告が必要かどうかの基準、「300万円」は帳簿を保存していない場合の例外の基準で、どちらも開業届を出すべき金額ではありません。見極めの軸は、帳簿の保存を前提に、活動が事業と呼べる程度になっているかどうかと、青色申告をどの年から使いたいかの2つです。青色申告承認申請書は、原則として青色申告をしたい年の3月15日まで、1月16日以後に始めた場合は開業日から2か月以内が期限なので、使いたい年から逆算して手続きの時期を決めておくと安心です。
